航空分野の脱炭素化で注目されるSAF(持続可能な航空燃料)。日本では2030年度に航空燃料使用量の10%をSAFへ置き換える目標があり、国産燃料の供給も始まりました。ただし、需要目標があることと、関連企業の利益が増えることは同じではありません。
本記事は、SAF関連企業の株価上昇を予想したり、売買を推奨したりするものではありません。各社を供給網の役割で分け、実証、設備建設、商業生産、供給開始、利益化のどの段階にあるかを比較し、利益と営業キャッシュフローまでの距離を確認します。
この記事で分かる3つのポイント
- SAFは航空分野の脱炭素化と燃料供給網の強化につながる長期テーマです。
- 関連企業は原料、製造、設備、流通・利用で、商業化までの距離が異なります。
- 投資では実証や採択だけでなく、量産、長期契約、利益・キャッシュフローへの波及を確認します。

株山が気になったこと:
SAFは政策目標が明確でも、廃食油やバイオエタノールなどの原料確保と、従来燃料より高い製造コストによって採算が変わります。設備能力と実際の販売量も分けて見ます。
高配当・長期保有では:
実証採択だけで判断せず、量産設備、長期供給契約、営業利益、設備投資後のキャッシュフローを確認します。既存事業の配当原資を圧迫しないことも条件です。
見方を変える条件:
原料調達と認証が進み、稼働率と供給契約が開示され、本業の利益へ寄与するなら評価を一段進めます。
この記事の内容
SAFとは何か
SAFは、廃食油、動植物油脂、バイオエタノールなど非化石由来の原料からつくる持続可能な航空燃料です。既存の航空機や給油設備を活用しやすい一方、原料や製法ごとに国際規格と持続可能性の認証を満たす必要があります。現在の航空機は電動化や水素化が難しい長距離路線も多く、燃料そのもののライフサイクル排出量を減らす手段としてSAFが重視されています。
SAFという一つの言葉でも、廃食油を水素化処理するHEFA、バイオエタノールを転換するATJなど製法は複数あります。原料、設備投資額、歩留まり、認証、併産品が異なるため、各社を同じ「SAF関連」の一括りで比べるのは適切ではありません。
日本の政策目標と供給体制
国土交通省は、2030年度の航空燃料使用量のうちSAFの割合を10%とする目標を示しています。官民協議会資料では、2030年の国内需要を171万キロリットル相当、企業計画を積み上げた供給見込みを約192万キロリットルとしていましたが、原料確保や技術開発の不確実性も明記されています。数字は政府予算額でも、確定した企業売上でもありません。
資源エネルギー庁は2024~2028年度の5年間で、大規模製造設備を支援する事業を進めています。2025年6月資料の予算規模は総額3,368億円、補助率はHEFAが3分の1、ATJが2分の1です。支援は初期投資を下げますが、操業後の原料費、稼働率、販売価格、認証維持まで保証するものではありません。
国土交通省の官民協議会資料では、国産SAFの価格を従来ジェット燃料の3~5倍と置いた試算もあります。需要目標だけでなく、この価格差を誰が負担し、長期契約と制度でどこまで縮められるかが商業継続の条件です。
SAFのサプライチェーン
| 段階 | 何をするか | 企業の役割 | 投資で見る数字 |
|---|---|---|---|
| 原料 | 廃食油、動植物油脂、エタノールなどを安定確保する | 回収事業者、商社、石油元売り | 調達量、価格、地域分散、長期契約 |
| 製造・供給 | HEFAやATJでニートSAFを製造し、品質を管理する | 石油元売り、製造事業者 | 能力、稼働率、歩留まり、販売量 |
| 設備・技術 | 製造装置、プラント設計、建設、保守を担う | エンジニアリング企業 | 受注高、利益率、追加案件 |
| 流通・利用 | 混合・輸送・給油を経て航空便へ搭載する | 商社、空港、航空会社 | 調達比率、契約期間、燃料費負担 |
上記は代表的な流れです。製法や企業によって工程と役割は異なり、認証取得と供給契約の成立前に商業供給済みとは扱いません。
関連企業の現在地
| 企業 | 主な役割 | 2026年8月時点の段階 | 公式情報から確認できたこと |
|---|---|---|---|
| コスモエネルギーHD(5021) | 製造・供給 | 商業生産・供給開始 | 堺製油所で年約3万kLを目指す設備を完成。2025年4月に大規模生産品を初供給し、同年5月にはJAL旅客便へ供給しました。次は販売量、稼働率、採算の開示を確認します。 |
| 日揮HD(1963) | 設備・供給網 | 設備完成・運転実証 | コスモ石油などと原料調達から製造、品質管理、空港供給までの一連の体制を構築。プラント案件の追加受注と利益率が本業への接続点です。 |
| 出光興産(5019) | 製造・原料 | 設備建設・供給準備 | 千葉の10万kL級ATJ設備と、2030年に年50万kLの国内供給体制を掲げています。2026年度供給開始計画はあるものの、本記事では実際の商業供給開始を未確認として区別します。 |
| ENEOS HD(5020) | 製造・供給 | 基本設計・設備計画 | 和歌山製造所で2028年度以降に年40万kL規模を目指す計画です。現時点は供給済みではなく、最終投資判断、建設進捗、原料契約が確認点です。 |
| 日本航空(9201) | 利用・調達 | 供給利用・長期調達 | 2030年に全燃料搭載量の10%をSAFへ置き換える目標を掲げ、国内外で調達契約を進めています。燃料費負担と運賃・法人プログラムへの転嫁が収益面の焦点です。 |
| ANA HD(9202) | 利用・調達 | 供給利用・長期契約 | 2030年度に消費燃料の10%以上をSAFへ置き換える目標があり、LanzaTechなどと中長期供給契約を締結しています。調達量だけでなく単価と費用負担を確認します。 |
この6社でも、すでに供給を始めた企業、設備を建設中の企業、基本設計段階の企業、燃料を調達する航空会社では、売上や利益までの距離が異なります。年間能力は実際の生産量ではなく、生産量は販売量や利益とも同じではありません。
関連企業を見る5つの確認点
1.原料を安定調達できるか
廃食油は既存用途との競合があり、輸入原料は価格や為替にも左右されます。調達量、調達地域、契約期間、原料単価を確認し、原料不足で稼働率が下がるなら慎重に見ます。
2.国際認証・品質基準を満たせるか
航空燃料は品質と持続可能性の確認が欠かせません。認証取得、製法ごとの混合上限、サステナブル証明書の発行実績を確認します。設備完成だけで認証済み・販売可能とは扱いません。
3.実証から商業生産へ進めるか
竣工、試運転、商業生産、供給開始を分けます。設備能力に対する実生産量、稼働率、継続供給先が増えるなら見方を維持し、開始延期や低稼働が続くなら慎重になります。
4.製造コストと販売価格の差を縮められるか
補助金、税制、量産効果、併産品の価値、長期契約を確認します。売価が高くても原料費と減価償却費が上回れば利益は残りません。営業利益率や会社説明で採算の輪郭が出るかが重要です。
5.本業の利益と営業キャッシュフローへ届くか
SAF売上の規模、セグメント利益、設備投資額、減価償却、運転資金を確認します。採択額や能力だけでなく、設備投資後も営業キャッシュフローが改善し、配当原資を圧迫しないことが条件です。
高配当・長期保有ではどう見るか
石油元売りや航空会社には既存事業があります。SAFだけを理由に銘柄を選ぶのではなく、既存事業が利益と現金を生む状態に、政策需要が上乗せされるかを見ます。製造企業ではSAF設備投資額、有利子負債、補助金を除いた負担、稼働後の営業キャッシュフローを確認します。
航空会社ではSAF調達が脱炭素対応に必要でも、従来燃料との価格差は費用になります。法人向けプログラムや運賃へ適切に転嫁できるか、燃費改善や機材更新と合わせて燃料費を管理できるかを見ます。配当方針が維持されていても、SAF投資や調達費が本業のキャッシュフローを圧迫するなら買い増しを急ぎません。
株山の結論
SAFは政策目標と実需がある長期テーマですが、需要量の増加だけで関連企業の利益は決まりません。株山は、企業が原料、製造、設備、利用のどこにいて、実証から商業生産、供給契約、利益、営業キャッシュフローへ進んでいるかを確認します。
まず評価を進めやすいのは、供給開始と販売実績が確認でき、次に稼働率や採算を追える企業です。計画段階の企業は、能力目標より最終投資判断と建設進捗を優先します。国策という言葉ではなく、会社の決算へ届いた数字で見方を変えます。
確認に使った一次情報
- 航空機の2030年度SAF使用割合10%|国土交通省
- SAF製造・供給体制構築支援事業|2025年6月30日|資源エネルギー庁
- 国産SAF大規模生産設備の完成|2025年3月7日|NEDO
- 国産SAFのJAL旅客便への初供給|2025年5月7日|コスモエネルギーHD
- ATJ-SAF製造計画と2030年供給目標|出光興産
- 和歌山製造所のSAF量産計画|ENEOS HD
- SAF利用目標と調達状況|JAL
- SAF利用目標と供給契約|ANAグループ
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本記事は公開情報を基にした情報提供であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

