- 中東情勢が悪化すると、通常は原油高・海運運賃上昇・防衛関連が注目されやすいです。
- しかし今回は、原油そのものだけでなく、ナフサ不足を起点にした石油化学サプライチェーンの詰まりが重要なテーマになっています。
- 長期化した場合は、化学、包装材、塗料、自動車部材、医療消耗品など、普段は中東リスクとして見られにくい分野にも影響が広がる可能性があります。
中東情勢で日本株はどう動く?今回は「原油・海運」だけでなくナフサ不足にも注意
中東で戦争や軍事衝突が起きると、投資家はまず原油価格と海運株を見ます。
過去のパターンでは、
「原油高 → 石油・資源株が買われる」
「航路不安 → 海運運賃が上がる」
という連想が働きやすく、関連銘柄の値動きが大きくなることがありました。
ただし、今回の中東情勢は少し違います。
今回、特に注意したいのは、原油そのものだけでなく、ナフサを起点にした石油化学サプライチェーンの詰まりです。
ナフサは、プラスチック、合成ゴム、塗料、包装材、化学繊維などの出発点になる重要な原料です。
Reutersは、ホルムズ海峡の混乱により、世界のナフサ輸出フロー約120万バレル/日が影響を受ける可能性があり、アジアのナフサ精製マージンが戦争前の約108ドル/トンから400ドル超/トンへ上昇したと報じています。
つまり今回は、単純な「原油高で資源株を見る」だけではなく、
ナフサ不足 → 化学品不足 → 包装材・塗料・自動車部材・医療消耗品へ波及
という流れまで見たほうが、相場の変化をつかみやすい局面です。
ポイント
今回の中東リスクは、「原油価格」だけでなく「ナフサ不足による下流産業への波及」まで見る必要があります。
普段の中東有事と、今回の違い
まず、普段の中東リスクと今回の違いを整理します。
| 視点 | 普段の中東有事 | 今回の特徴 |
|---|---|---|
| 主な注目点 | 原油価格、海運運賃、防衛関連 | 原油に加えて、ナフサ・石化原料・中間材不足 |
| 買われやすい分野 | 石油、資源、商社、海運 | 資源株だけでなく、代替素材・価格転嫁力のある素材企業も注目 |
| 影響を受けやすい分野 | 空運、化学、消費関連 | 化学、包装材、塗料、建材、自動車部材、医療消耗品まで拡大 |
| 海運の見方 | 運賃上昇でプラスに見られやすい | 運べない、出荷できない、保険・航路制約のマイナスも大きい |
| 株式市場の見方 | 原油高メリット銘柄 vs コスト増銘柄 | サプライチェーン上の“詰まり”を受ける企業の見極めが重要 |
従来は「原油価格が上がったから石油株」「物流が混乱するから海運株」という連想で相場が動きやすい面がありました。
しかし今回は、ナフサやキシレンなどの中間原料が不足・高騰することで、普段は中東リスク銘柄として見られにくい分野にも影響が出ています。
経済産業省の会見でも、ナフサ系材料、とくにキシレンの供給見通しが不透明になったことをきっかけに、塗料用シンナーのメーカーや卸・小売が4月出荷を半減させ、国内サプライチェーンのボトルネックになった例が紹介されています。
ポイント
普段は「原油・海運」が中心ですが、今回は石化原料不足による二次・三次影響まで見たい局面です。
今回、普段と違う動きが出やすい分野
-1.化学・石油化学:原油高メリットよりも原料高リスク
今回もっとも注意したいのが、化学・石油化学です。
中東有事では、原油高を背景に資源関連として買われる銘柄が出ることがあります。
しかし、石油化学メーカーにとってナフサは原料です。ナフサ価格が上がる、または調達が難しくなると、製品価格へ転嫁する前にコストが上がり、利益率が圧迫されやすくなります。
Reutersは3月時点で、アジアの石化メーカーがナフサ供給の混乱に直面し、ナフサ精製マージンが4年ぶりの高水準になったと報じています。
つまり、今回の化学株は一括りにしにくいです。
- 汎用品比率が高い石化メーカー:原料高・供給不安の影響を受けやすい
- 高機能材メーカー:価格転嫁力があれば相対的に耐性あり
- 代替素材・リサイクル素材関連:代替需要が意識される可能性
同じ化学でも、「ナフサをどれだけ使うか」「価格転嫁できるか」「高付加価値品か」で株価の反応が分かれやすい局面です。
-2.包装材・食品容器:食品株や小売株にも波及
次に見落としやすいのが、包装材・食品容器です。
ナフサはプラスチック製品の出発点です。
そのため、食品包装フィルム、トレー、容器、袋、ラベル、梱包材などにコスト上昇が波及します。
Reutersは、食品包装材で価格上昇が起きており、ナフサ不足が食品価格の値上げラッシュにつながる可能性があるとする帝国データバンクの見方を紹介しています。
この影響は、包装材メーカーだけにとどまりません。
- 食品メーカー:包材コスト増
- 小売:仕入れ価格上昇と値上げ対応
- 外食:容器・包装・物流コスト増
- 消費者:食品価格や日用品価格の上昇
つまり、今回の中東リスクは原油や海運だけでなく、生活必需品の価格にも波及しやすいという点が普段と違います。
-3.塗料・シンナー・建材:キシレン不足がボトルネックに
今回かなり特徴的なのが、塗料・シンナー・建材・自動車補修の分野です。
通常の中東リスクでは、塗料やシンナーが相場テーマとして大きく注目されることは多くありません。
しかし今回は、ナフサ由来のキシレンなどの供給不安が、塗料用シンナーの出荷制限につながるケースが出ています。
経産省は、ナフサ系材料の供給見通しが不透明になったことで、塗料用シンナーのサプライチェーンに不安が広がり、結果として4月出荷が半減するボトルネックが形成された例を説明しています。
この影響は、以下の分野に広がり得ます。
- 建設・リフォーム:塗料不足、工期遅延
- 自動車補修:塗装・修理の遅れ
- 建材メーカー:樹脂・断熱材・塗装関連のコスト増
- 塗料メーカー:原料高と供給制限の両面リスク
ここは、今回の「普段とは違う値動き」が出やすい分野です。
単なる原油高ではなく、特定の中間原料が足りないことで、下流産業に詰まりが発生するためです。
-4.自動車:円安メリットだけでは読みにくい
自動車株も、今回は注意が必要です。
通常なら、円安が進めば輸出企業には追い風と見られやすいです。
しかし今回の中東情勢では、物流制約そのものが輸出に影響しています。
Reutersは、4月の日本の中東向け自動車輸出が、戦争による輸送混乱で前年比90%超減少したと報じています。
中東は2025年時点で日本の自動車輸出の約14%を占め、ランドクルーザーのような高採算車種にとって重要な市場でもあります。
自動車への影響は複合的です。
- 中東向け輸出の減少
- 航路混乱による納車遅延
- 樹脂・ゴム・塗料など部材コスト上昇
- 円高方向に戻った場合の為替逆風
つまり今回は、円安メリット vs 輸送停止・部材高・販売機会損失という構図です。
従来の「円安なら自動車株にプラス」という見方だけでは不十分です。
-5.医療・介護消耗品:ディフェンシブでも原料高の影響
医療・介護関連は、通常はディフェンシブ銘柄として見られやすい分野です。
しかし、注射器、手袋、衛生用品、樹脂容器などには石化由来の材料が多く使われます。
そのため、ナフサ不足や合成ゴム・樹脂材料の価格上昇は、医療・介護消耗品にも波及します。
医療・介護分野は価格転嫁が簡単ではないケースも多く、原材料費上昇が利益率を圧迫しやすい可能性があります。
株式市場では、ディフェンシブと見られていた分野でも、原料依存度が高い企業はコスト増リスクを織り込まれる可能性があります。
-6.海運:運賃上昇メリットだけではなく「運べないリスク」
海運についても、今回は単純ではありません。
通常、中東リスクでは航路不安や保険料上昇により、運賃上昇が連想され、海運株に買いが入ることがあります。
しかし今回は、ホルムズ海峡の通航制限や保険・安全上の問題により、そもそも運べない、荷動きが止まる、出荷が減るというリスクが目立ちます。
Reutersは、ホルムズ海峡を通る船舶の動きが大きく減少していた一方、5月20日時点で一部タンカーが原油を積んで海峡を出たとも報じています。
ただし、依然として地域は高リスクで、船舶や船員が足止めされている状況も伝えられています。
つまり、海運株は一括りにせず、以下のように見る必要があります。
- タンカー:原油輸送の再開・保険料・リスクプレミアムが焦点
- 自動車船:中東向け輸出減の影響
- コンテナ:迂回・遅延・荷動き減少
- 港湾・倉庫:滞留・在庫増・配送遅延
今回の海運は、運賃高メリットと荷動き減少リスクが同時に存在する点が普段と違います。
ポイント
今回は、化学・包装・塗料・自動車・医療消耗品・海運などで、普段とは違う値動きが出やすいと考えられます。
長期化した場合のリスク
今回の問題は、短期の原油高だけなら市場がある程度織り込めることです。
本当に厄介なのは、長期化した場合に、ナフサ不足が製造業全体のボトルネックになることです。
Reutersは、丸紅元CEOの國分文也氏の発言として、日本では中東からのナフサ供給代替が難しく、6月下旬以降に化学製品不足が起きる可能性があると報じています。
長期化した場合、リスクは次のように広がります。
リスク1:石化製品の供給制限
ナフサ不足が続くと、エチレン、プロピレン、合成ゴム、樹脂などの基礎材料が不足します。
これにより、化学メーカーだけでなく、自動車、家電、建材、包装材、医療消耗品まで影響が広がります。
リスク2:価格転嫁によるインフレ再燃
包装材や食品容器が上がると、食品価格にも波及します。
消費者の生活コストが上がると、個人消費が弱くなり、内需株に逆風となります。
Reutersは、食品包装材の値上がりが食品価格の値上げラッシュにつながる可能性を紹介しています。
リスク3:企業の生産計画見直し
原材料が入らない場合、企業は価格以前に「作れない」問題に直面します。
これは、決算において売上・利益の下振れ要因になります。
リスク4:代替調達コストの上昇
中東以外からナフサや石化製品を調達しようとすると、調達コストや輸送コストが上がります。
Reutersは、日本政府が中東以外からの供給確保を進めている一方、日本は攻撃前にナフサの40%を中東から調達していたと報じています。
リスク5:銘柄間の格差拡大
長期化すると、株式市場では同じ業種内でも差が出ます。
- 調達力がある企業
- 価格転嫁力がある企業
- 在庫を持っている企業
- 代替素材を提案できる企業
- 国内外に複数サプライチェーンを持つ企業
こうした企業は相対的に強くなりやすい一方、汎用品依存・価格転嫁力が弱い企業は苦しくなりやすいです。
ポイント
長期化すると、問題は「価格上昇」だけでなく、作れない・運べない・出荷できないという供給制約に変わる可能性があります。
投資家が見るべきポイント
今回の相場を見るうえで、チェックしたいのは次の5点です。
-1.原油価格だけでなくナフサ価格を見る
今回の本質は、原油価格そのものよりも、ナフサやキシレンなどの石化原料の供給制約です。
原油が落ち着いても、ナフサが不足していれば化学・包装・塗料には影響が残ります。
-2.「価格転嫁できるか」を見る
原料高の局面では、売上が伸びても利益率が悪化する企業があります。
決算では、売上高よりも営業利益率、粗利率、価格改定の進捗を確認したいところです。
-3.サプライチェーンの上流・下流を分ける
同じ化学でも、上流・中間材・下流製品で影響は異なります。
「化学株は全部厳しい」ではなく、原料を売る側か、買う側かを見分ける必要があります。
-4.海運は船種別に見る
タンカー、自動車船、コンテナでは受ける影響が違います。
運賃上昇がプラスになる船種もあれば、荷動き減少がマイナスになる船種もあります。
-5.代替素材・国内調達・在庫力を見る
長期化局面では、代替調達や在庫戦略が重要になります。
紙包装、リサイクル材、バイオ素材、国内供給網を持つ企業は、相対的に注目されやすい可能性があります。
ポイント
今回の相場では、ナフサ依存度・価格転嫁力・代替調達力・在庫力を確認することが重要です。
まとめ
今回の中東情勢は、従来のように石油株と海運株だけを見ていればよい相場ではありません。
普段なら、
原油高 → 石油・資源株
航路不安 → 海運株
という連想が中心になりがちです。
しかし今回は、
ナフサ不足 → 石化原料不足 → 包装材・塗料・建材・自動車部材・医療消耗品へ波及
という、より広いサプライチェーンの問題として見る必要があります。
特に長期化した場合、問題は「コストが上がる」だけでは済みません。
原料が手に入らず、製品が作れない、出荷できない、工事や修理が遅れるといった形で、実体経済への影響が広がる可能性があります。
投資家としては、単純に「有事だから資源株」「運賃高だから海運株」と見るのではなく、
ナフサ依存度、価格転嫁力、代替調達力、在庫力、サプライチェーンの位置
を確認することが重要です。
今回の相場で普段と違う動きが出やすいのは、以下の分野です。
- 石油化学・総合化学
- 包装材・食品容器
- 塗料・シンナー・建材
- 自動車・自動車部材
- 医療・介護消耗品
- 船種別に影響が分かれる海運
- 代替素材・国内調達関連
中東情勢が短期で収まるなら、一時的な混乱で終わる可能性もあります。
しかし長期化するなら、日本株では「原油高メリット銘柄」よりも「ナフサ不足をどう乗り切れる企業か」が、より重要な見方になっていきそうです。
ポイント
今回の中東リスクは、原油高メリットよりも、ナフサ不足に耐えられる企業を見極める視点が重要です。
引用元・参考リンク
- Reuters:Iran war chokes petrochemical supply, sends plastic prices soaring
https://www.reuters.com/business/energy/iran-war-chokes-petrochemical-supply-sends-plastic-prices-soaring-2026-03-26/ - Reuters:Asian petchem makers face naphtha disruption as Iran conflict widens
https://www.reuters.com/business/energy/asian-petchem-makers-face-naphtha-disruption-iran-conflict-widens-2026-03-04/ - 経済産業省:Press Conference by Minister Akazawa(2026年4月14日)
https://www.meti.go.jp/english/speeches/press_conferences/2026/0414001.html - Reuters:Japan March factory output unexpectedly falls, naphtha-related price pressure
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/japan-march-factory-output-unexpectedly-falls-05-month-on-month-2026-04-30/ - Reuters:Japanese auto exports to Middle East plunge in April as war disrupts shipping
https://www.reuters.com/business/autos-transportation/japanese-auto-exports-middle-east-plunge-april-war-disrupts-shipping-2026-05-21/ - Reuters:Chinese tankers exit Strait of Hormuz with crude oil, data shows
https://www.reuters.com/business/energy/chinese-tankers-exit-strait-hormuz-with-4-million-barrels-crude-oil-data-shows-2026-05-20/ - Reuters:Former Marubeni CEO warns Japan could face chemical product shortages from late June
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/former-marubeni-ceo-warns-japan-could-face-chemical-product-shortages-late-june-2026-05-25/ - Reuters:Japan naphtha-dependent firms flag supply issues despite government assurances
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/japan-naphtha-dependent-firms-flag-supply-issues-despite-government-assurances-2026-04-15/
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。


